レクイエム/2つの家紋
私の実家には、石倉が建っている
祖父が若かりし頃、建てたものの様だ
三角屋根で、2階に窓が1つ在るだけで、窓には鉄格子がはめ込まれてある
蔵の中は薄暗く、カビ臭い、中に仕舞ってある物にはどっさりと埃が積もっている
子供の頃、悪い事をするとよくこの蔵に閉じ込められた
中はヒンヤリして月の灯りが照らしていたのを覚えている
二階には、埃をかぶった「長持」がある
その中には、漆器の盃とお椀が入っている、聞くところによるとお膳一式で20膳はあるらしい
もう、長い間使われた形跡がない
この蔵の石は、「札幌近郊の石切り場」から運んだらしい、普通なら近場の「美瑛」から運ぶのが主流だが祖父は札幌の石を取り寄せた
昔、祖母がこう言っていた「あの人は、お金を貯める事をしなかった人で、まぁ、地域やお寺に寄付したり、こんな石蔵まで作って…本当にバカ正直な人だった」
しかし、この蔵の妻壁には南と北側で違う家紋が掘られてある
一つは、勿論、実家の家紋、もう一つの家紋が謎だった
祖母に聞いても良く分からない様で...私は、親戚のおじいさん(祖父の弟)に聞いてみた
すると_____以外な事が分かった
この謎の家紋の持ち主をS氏と呼ぶ
S氏は赤の他人らしい
北海道入植で同じ船に乗り、同じ場所に降り立ち、同じ土地を開墾した
当時は、こう言う事が珍しく無く、赤の他人でも兄弟以上の繋がりが在ったらしい
想像だが、このS氏と苦楽を共にし、血と汗を流し、光りも入らぬ森を開墾したのだろう
この土地が、豊穣の土地になった時、どんなに嬉しかっただろうか
しかし、S氏の家族は「結核」となり...家族全員が帰らぬ人と成った
空き家と成ったS氏の家屋に火を放ち、全てを燃やした、結核を広げないための当時の防疫だったそうだ
…私は、口に手を当て話の余韻と共に絶句した
祖父は、どんな気持ちでこの炎を見続けたのだろう…
古びた外観の、しかし、凛と建つ石蔵を見上げる
家族の歴史が刻む石に思いを馳せる。
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