師弟
今年、前職の大先輩の訃報を聞いた。 あのゴッドファーザーのような人が亡くなった。 信じられず、私は大先輩の自宅を訪ねた。 しかし、そこはもぬけの空だった。 空を見上げ、誰もいないドアに一礼して車に乗る。 帰り道、助手席に置いた花が、静かに揺れていた。 本当に厳しい人だった。今ならパワハラと言われるのかもしれない。 それでも私は、この人の技術を盗んでやろうと必死に食らいついた。 気が付けば、先輩は付きっ切りで私を指導してくれた。 出来なくて頭を叩かれたこともあったが、そんなことはどうでもよかった。 彼は本気で、私という人間と向き合ってくれていたからだ。 おかげで、私は一人前になれた。 先輩が退職する時、こう言われた。 「若い衆をよろしく頼む。仕事はぼちぼちでいい。礼儀をしっかり叩き込んでくれ」 その時、ハッとした。 先輩は私に仕事を教えると同時に、人としての「礼」を叩き込んでくれていたのだ。 今度は、自分が見送られる番になった。 皆と握手を交わした時、あの大先輩の気持ちが初めて分かった。 「先輩、すみません。最後に見送ることができませんでした」 昔の写真に語りかけた。