眠り続ける栄光と自転車

 【9.5月:稲刈】

実家の納屋には錆びてボロボロの自転車が一台ある


埃をかぶり、ロゴも色あせ読み取る事が出来ない


泥除けと荷台、ライトのメッキだった部分は茶色く成り光るメッキが所々にしかもう無い


後ろのウインカーは割れて配線が飛び出している


そして、その横にはバイク用のハンドルが___立てかけてある



9月後半、稲刈りが始まる


これもまた、家族総出の仕事だ


私の仕事は、コンバインの横に乗り籾(もみ)が出て来るのを袋に入れる作業だ


刈った稲の籾が出て来る金属の筒の所に袋をあてがい8分目ぐらいでレバーで一旦止める


そして、新しい袋を付ける、レバーを戻し籾を入れる


それが、5袋(一袋30kgくらい)になったら父に合図をする


すると、畔で待つ祖父がトラクターでやって来て、米袋を納屋へ運ぶ


納屋には、祖母と母が居て袋をおろし、計量して30kgにする、そして袋の口を麻糸で縫う


稲刈りはほぼ一日で終わらすので、夜遅くまでこの作業が続く


稲刈りの夕飯は、おにぎり、味噌汁、漬物を納屋で食べる、父は刈り終わるまで食事はとらない


午後8時を過ぎると、私だけ家に戻り風呂に入り眠りに付く


夜、機械の音が子守歌の様に聞こえる「ゴーーーーッ、カタカタカタ…」


私がふと目を覚まし、台所へと行くと父が一人で食事をしていた


薄暗い台所に父の背中がポツンと在った____。



私が小学3年生の頃に、自転車を買ってもらった、ピカピカでウインカーが付いていて18段の「切替」が付いていた


その年は、豊作だったらしく、家族みんなの顔がほころんでいた


私は毎日、自転車を磨いた


嬉しくて、嬉しくてたまらなかった____。



中学2年生に成り、私は親に自転車をねだった


しかし、その頃、米の値段が暴落し、実家は水田をやめた


私はBMXが欲しかったが、買えるはずもなく


友達から譲ってもらったバイクのハンドル(出先不明)を自転車に付けてBMXに仕立てた


あんなに大切にしていたのに、雑に扱う様になって、昔のピカピカの面影は何処にも無かった


そのうち、「切替」も壊れて針金で固定した



私は、最近、通勤でマウンテンバイク(自転車)を使っている、休みの日は、フレームを磨き、チエーンに油を指す__そうワクワクしたあの頃の様に



父がこの自転車を捨てられずにいたのは、過去の米を作っていた時の栄光の思い出を捨てられない気持ちからだったであろう


埃だらけのサドルに手形が付いていた、私もサドルにポンと手を乗せた。













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